- 10月1日(土)
- ペナルティーエリアからの救済解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
PGAツアーのFedEx St.Jude選手権、3日目の4番ホールで起こった事件です。
パー3のティーショットを左に曲げたキャメロン・スミスの球は、グリーン左の池に入ってしまいました。
そこから1罰打でラテラル救済のドロップした球をプレーしてホールアウトしたのですが、
これが翌朝になって誤所からのプレーと判断され、2罰打を課されたのです。
では、何故そうなったのでしょう。
今回のケースでは、救済のためにドロップして止まった球の一部が、
赤線に触れていたことに問題があります。
規則では、赤線自体はそのペナルティーエリア内であり(定義・ペナルティーエリア)、
球の一部がペナルティーエリア内の地面に触れている場合、
その球はペナルティーエリアにあると定めています。(規則17.1a)
これをスミスは勘違いし、逆に球の一部がジェネラルエリアに触れていたので
ジェネラルエリアの球だと思い、そのままプレーを続けてしまったのです。(規則2.2c)
本来、ドロップした球がペナルティーエリアに止まった場合、
それは救済エリアの外に止まったということで2回目のドロップをしなければなりませんが、
この処置を怠ったために誤所からのプレーとなりました。(規則14.3c(2)、規則14.7a)
ここで着目して頂きたいのは、ペナルティーエリアからの救済では、
ドロップした球をプレーするとき、球はペナルティーエリアにあってはいけませんが、
ドロップした球をプレーするときにスタンスがペナルティーエリアにあっても問題ないということです。
ペナルティーエリアの救済対象は球のみなので、球さえ正しく救済できれば
スタンスや意図するスイングがペナルティーエリアにあっても、そのままプレーとなります。
これは試合でも、よく選手に聞かれる質問です。
これとは別に、障害物や修理地などの異常なコース状態からの救済は、
球と意図するスイングと意図するスタンスの3つが救済対象となるので、
この3つ全てが救済後にそれらの障害に触れていてはいけません。(規則16.1)
必ず2回目のドロップをして、正しく救済を完了してください。
- 10月8日(土)
- バンカーレーキにボールが当たった場合の処置解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
【質問】
バンカーのレーキにボールが当たった場合の処置についての質問です。
プライベートなラウンドで起きた事例ですが、同伴者のアプローチショットが、
グリーンとバンカーの間(1mほど)に置かれたレーキに当たって
跳ね返ったボールはバンカーに入ってしまいました。レーキが無ければナイスオンしていたはず。
私も含め「そんな所に置いてあるのがおかしい」とレーキの場所からの
プレー続行をすすめましたが、本人はそのままバンカーからプレーをしました。
この場合、競技ではどんな処置となるのでしょうか?
そもそも正式な競技ではそんな所にレーキは置かれていないとは思いますが。
【解説】
ご質問ありがとうございます。
はい、バンカーからそのままプレーしなければなりません。
このケースですが、バンカーの手前からストロークする前に、
プレーの線上にあるバンカーレーキを除けることができます。
またレーキは自然物ではなく、動かせる障害物です。
ここで少し話が逸れますが、例えば同じ状況でプレーヤーがショットして、球が動いている間に、
バンカーレーキの近くにいる同伴プレーヤーが、このままだと球がバンカーレーキに当たってしまうから除けてあげようという親切心で、
バンカーレーキを動かしてしまった場合、その同伴プレーヤーに2罰打がついてしまいます。(規則11.3)
プレーした本人は罰はつかず、ショットして止まったところからプレーを続けることになります。
それなので、バンカーレーキを動かすときはストロークをする前にしましょう。
最後にバンカーレーキの置き場所ですが、確かにバンカーとパッティンググリーンの間は、
球の当たる可能性があるので、そこには置かないのが望ましいです。
プレー中に、レーキの置かれた場所が誰かのプレーの邪魔になるようだったら、
そうでない場所に置くように心がけましょう。
- 10月15日(土)
- バンカー内の足跡が均せるとはいえ...解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
8月の全英女子オープンで実際に立ち会ったルーリングです。
3ラウンド目、17番ホール、パー5の3打目地点での出来事です。
ツーサムでプレーしていた2人のセカンドショットは、
両方とも右のバンカー方向に飛び、キム・ヒョージュ選手の球はそのバンカー内に、
アンドリア・リー選手の球はそのバンカーの前にある積み芝に止まりました。
プレーの順番は、ホールから遠いバンカーに球があるヒョージュ選手が先となるのですが、
そんなことはお構いなくリー選手はバンカー内に入り、
積み芝にある自分の球をどうプレーしようかとイメージします。
当然、バンカーにリー選手の足跡はつきますが、これがヒョージュ選手の
球の1m前のエリアで、プレーの線が悪化された状態になりました。
バンカーの顎は積み芝で高くなっており、ちょっと間違えれば
バンカーからストロークした球が顎に当たって戻ることは充分考えられます。
それでヒョージュ選手は、「バンカーからプレーする前に、
リー選手の作った足跡を均せるか」と訊ねたので、「均せる」と答えました。
規則では「球が止まった後に、プレーヤー以外の人によってストロークに影響を及ぼす状態が
悪化した場合、出来る限り元の状態に復元できる」としています。(規則8.1d(1))
因みに誰がバンカーレーキで均しても良いです。
この状況ですが、いくらバンカー内の足跡が均せるとは言え、
マナー上、リー選手はヒョージュ選手がプレーしてからバンカーに入るべきです。
リー選手が先にバンカー内に入ることにより、ルーリングとなってしまい、
砂を均す手間も増え、プレーのペースにも影響します。
結局、リー選手は積み芝にある球をアンプレヤブルとみなして、
1罰打を加えた上でラテラル救済をしました。(規則19.2c)
積み芝はジェネラルエリアなので、球からホールに近づかない
2クラブレングス以内のラフにドロップすることが出来ました。
この処置も含めて3打目地点からのプレーに5分かかってしまい、
18番ホールが空いてしまったのは言うまでもありません。
- 10月22日(土)
- 分かっている、または事実上確実解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
Twitterでも頂いた質問です。
PGAツアーのBMW選手権、2ラウンド目の7番ホールで松山選手が
バンカー近くのラフに止まっていた球のそばで練習スイングをしていたら、
球は動き、ポロリとバンカーに転がってしまいました。
結果的に、これは罰なしでバンカー内で球の止まったところから
プレーと裁定されましたが、何故そうなったかを説明します。
動画を観ますと、松山選手が球から30㎝のところで
練習スイングをしたタイミングで、球が動いたように見えます。
つまり、選手が球を動かしたということで、
1罰打でラフにあった元の位置にリプレースではないかと思えます。(規則9.4)
ところが、よくよく観てみますと、球は練習スイングする前から
わずかに下に動いているのが確認できます。
つまり、これは重力により自然の力で動いていると判断できます。(定義:自然の力)
規則では「自然の力によって動いた球は、罰なしで止まった新しい箇所から
プレーしなければならない」とあるので、正しい裁定と言えます。(規則9.3)
このタイプのルーリングは、一番ややこしく判断に難しいです。
今回は証拠となるビデオが残っているので、何度もリプレーして確認することができますが、
多くの場合は選手やその場にいた人の証言を元に判断するしかありません。
その場合、選手が球を動かす原因となったかを決定するための基準は
「分かっているか、事実上確実」かによります。
これは、プレーヤーが動かしたという決定的な証拠があるか、その可能性が95%以上であると、
周りの情報を元に示せるかで判断しなければなりません。(定義:分かっている、または事実上確実)
つまり、選手が球を動かした可能性が半々の場合は、
選手ではなく自然の力で動いたと裁定します。(規則9.2b)
それ故、本人が正直に「私が動かした」と言うか、見ていた周りの人が
「選手が動かしたのをはっきり見た」などの情報がない限り、罰打をつけるのは難しいです。
- 10月29日(土)
- 2つの球をプレーする前に、どっちの球をスコアにカウントしたいか宣言しましょう解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
プロのトーナメントでは競技委員がいるので、
ルールに疑問があれば選手はルーリングを要請します。
それでも稀に競技委員を呼ばずに自ら2つの球をプレーして、
ホールアウト後に集計所で処置の確認をする選手もいます。
この時によくあるケースが、選手はストロークをする前に
「2つの球をプレーする」と宣言はしますが
「どちらの球のスコアを採用したいか」を言いません。
それを言わないことによって、罰になったり
処置が無効になったりはしませんが、損をすることがあります。
例えば、プレーヤーの球がラフにあり、その球は深いわだちの中にありました。
プレーヤーは修理地として救済ができるか定かでなく、
2つの球をプレーすると決め、後で競技委員に判断してもらうことにしました。
この時「わだちから救済を受けたほうのスコアを採用したい」と言えば、
わだちが救済対象と認められた場合、そのスコアが採用されます。
しかし言わなかった場合、両方の処置が間違っていなければ、
2つの球のうち、初めにプレーした球のスコアが採用されます。
それなので、もしプレーヤーがわだちの中にある球を先にプレーした場合、
そのライの悪い状態のほうのスコアが採用されてしまいます。
結果的に、そのわだちの救済が認められたとしても、
2つの球をプレーしたことが無意味となってしまうのです。
もちろん、わだちから救済をした球を先にプレーすればそのスコアが採用されます。
ただ、今まで立ち会ったケースでは、ほとんどの選手は
止まっている球を先にプレーしてから、救済した球をプレーします。
そして多くの場合、救済された球のスコアのほうがよいのです。
それは救済した球のほうが良いライからプレーしているので当然とも言えます。
今後2つの球をプレーするときは、必ずどちらの
球のスコアを採用したいか宣言しましょう。(規則20.1c)