- 7月5日(土)
- ドライバーヘッドに描かれたアライメント用の線解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
5月に開催されたパナソニックオープンレディースゴルフトーナメントの競技前、
あるクラブメーカーさんが選手のドライバーを持って競技委員ルームへ訪ねてきました。
そのドライバーヘッドにはフェースに沿ってヘッド上部に2ミリほどの白いペイント線と
その線の真ん中あたりに2センチほどの直角になる線がTの字のように描かれていました。
このようなアライメント目的の装飾がクラブ規定の違反にならないか確認したいとのことでした。
用具の規則iv「外部付属物」には、認められる可能性のある例として、
クラブフェース以外でのアライメントや標準支援など、クラブヘッドへの半恒久的な付属物があります。
しかし、そうしたアイテムはクラブヘッドから過度に突き出てはならず
クラブヘッドの形状に適合しなければなりません。
また、そうした付属物が適合ドライバーヘッドリストのクラブの正しい識別に混乱を生じさせてはならないため、
小さく見た目が単純で控えめな位置にあるべきです。
今回のドライバーはこれらの条件に適っていた為、委員会は適合と裁定しました。
以前、アライメント目的で松山選手がドライバーのフェースの溝にペイントしたことで失格になりました。
このケースでは、そのペイントはアライメント目的であったものの、
溝からはみ出しフェースに僅かな凹凸ができたことから
「球の動きに不当に影響を及ぼす可能性がある物質」とみなされ不適合クラブと裁定されました。(規則4.1a(1))
また、JLPGAツアーでは
2021年にドライバーのフェースに計測用に貼られた小さなシールを付けたままプレーして失格になったケースもありました。
ここでのポイントはシールがクラブの性能やストローク後の球の飛び方に影響したかどうか
という判断基準ではないということです。
尚、2023年のルール改訂では、
このようなシールがフェースに貼られたままうっかりラウンドをスタートした場合でも、
その貼られた状態でストロークをしていなければ、
シールを剥がして残りのホールで罰なしに使うことができます。(規則4.1a(3)例外)
以前はシールを剥がしても使用できませんでした。
用具規則はとても複雑で、
ペイントやシールなどの付属物はクラブの部位や位置、目的などによっても認められたり認められなかったりします。
クラブに何かを取り付けたり装飾したりする場合はお気をつけください。
- 7月12日(土)
- 「教えて!Nory」解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
【質問】
おはようございます!阿蘇さん、中﨑さん!
グリーンオンしたボールがエアレーションの穴の上に止まっていた際、
マークしてエアレーションの穴をフォークで改善した場合、ペナルティーになりますか?
よろしくご回答ください。
【解説】
ご質問者様、ご質問ありがとうございます。
パッティンググリーン上のエアレーションの穴はパッティンググリーン上の損傷ではないため、
プレーの線上やライにあるエアレーションの穴を修理して
ストロークに影響を及ぼす状態を改善した場合は一般の罰が課されます。(規則13.1c(2)、8.1a)
つまりパッティンググリーン上で、
自分のプレーに影響のない箇所のエアレーションを直しても罰はありません。
3月や4月は時節柄芝の成長が活発なため、パッティンググリーンにエアレーションやエッジ切りが施されます。
パッティンググリーンのエアレーションの穴は芝の根をしっかり伸ばすための大事なメンテナンス作業です。
しかし、そのようなメンテナンスの穴が適正なゲームのプレーの障害になることがあります。
そのような場合、委員会はローカルルールひな型E-4を適用することで
球がエアレーションの穴の中にある、または触れている時には救済を認めることができます。
パッティンググリーン上にある球は、
規則16.1dに基づいて完全な救済のニヤレストポイントにプレースすることで
罰なしの救済を受けることができます。
ちなみに、エアレーションの穴はグリーン全体にあることがほとんどで、その穴1つ1つが単体の障害と考えます。
つまり、1つの穴から救済を受けると別の穴が障害となる可能性もありますが、
それはそれで1つの救済が完了したことになり、プレーヤーはそのままプレーすることができますし、
さらに救済を受けることもできます。
実際にJLPGAのステップ・アップ・ツアーでは、
4月にエリエール松山で開催された大王海運でこのローカルルールひな型E-4を適用しました。
- 7月19日(土)
- コース上の張芝解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
JLPGAステップ・アップ・ツアーとTLPGA共催のCTBCレディスオープンは5月に台湾のオリエントG&CCで開催されました。
コースには孔雀やフクロウが生息しており、ガジュマルの木には胡蝶蘭が植樹され、美しい花々が咲き誇っていました。
トーナメントのためのコースメンテナンスは「素晴らしい」の一言でしたが、パッティンググリーン上には所々、張芝がありました。
今回はその張芝についてお話しします。
コース上の芝の張られた部分は地面に活着するまで修理地としてマーキングすることが一般的です。
しばらくして芝が地面に根付いて活着した場合は、もはや修理地ではなくなりますが、
委員会はローカルルールひな型F-7を適用することで、張芝の継ぎ目から救済を認めることができます。
この大会では台湾女子プロゴルフツアー(TLPGA)のハードカードを適用しており、
このローカルルールひな型F-7はそこに載っていました。
処置の方法は、プレーヤーの球が張芝の継ぎ目の中にあったり、
継ぎ目がプレーヤーの意図するスイング区域の障害となっていた場合に救済が認められます。
ジェネラルエリアにある球に対しての救済は、規則16.1bに基づいて
完全な救済のニヤレストポイントからホールに近づかない1クラブレングス以内にドロップです。
パッティンググリーン上の場合は、規則16.1dに基づいて
パッティンググリーンかジェネラルエリアに完全な救済のニヤレストポイントを決めてプレースとなります。
注意点は張芝がプレーヤーのスタンスの障害となっても救済がないことと、
張芝の区域の中のすべての継ぎ目は同じ継ぎ目として扱われることです。
CTBCレディスオープンの2日目、7番グリーンで立ち会ったルーリングでは、
プレーヤーの球はグリーン上にあり、プレーの線上にある張芝から救済を受けられるかの質問でした。
張芝や継ぎ目自体は修理地ではないため、その線上からの救済は認められません。
しかし、パッティンググリーン上にある張り替え跡やその継ぎ目は規則13.1cに基づいて修理することができます。
異常気象でコースメンテナンスが難しい近年ではこのように張芝もよく目にすることかと思います。
その時の救済方法としてお役に立てれば幸いです。
- 7月26日(土)
- 全米プロ選手権の泥つきボールの扱いに疑問解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
全米プロ選手権は5月、ノースキャロライナ州のクエイルホロークラブで開催されました。
同じ組で回っていた世界ランクトップ3の
スコッティ・シェフラー選手、ザンダー・シャウフェレ選手とロリー・マキロイ選手が
16番ホールで全員ダブルボギーを叩く珍事がニュースとなりました。
その大きな要因が、大会前日の大雨の影響で地面が柔らかく球に泥が付着しやすい状況の中、
大会を主催する全米プロゴルフ協会は球を拭くことができるローカルルールを採用しなかったということです。
シェフラー選手は16番ホールのフェアウェイ、残り212ヤードのセカンドショットを左に巻いて池に入れてしまいました。
シェフラー選手は
「フェアウェイの真ん中で、どこに飛ぶかわからない泥の付いたボールを打つことは本当にフラストレーションが溜まる。
ゴルフはあるがままでプレーすべきだという純粋主義者は、
私たちが人生をかけてボールの打ち方、コントロールの仕方を習得しているにも関わらず、
ルール次第で突然それが奪われる気持ちを理解していないと思う」
とコメントしました。
球に泥が付く場合、委員会はローカルルールひな型E-2を適用することで
ジェネラルエリアにある球を拭くことを認めることができます。
このローカルルールが適用されている場合、
プレーヤーはジェネラルエリアのラフやフェアウェイで球をマークして拾い上げ、拭き、
元の箇所にリプレースすることができます。
このような救済は「コースはあるがままにプレーする」というゴルフの原則から外れているため、
コースの必要な部分、例えば「6番ホール」などに限定されるべきです。
他にも委員会はローカルルールひな型E-3プリファードライを適用することがでます。
これはジェネラルエリアのフェアウェイの長さ以下の区域においてのみ使うことを意図しており、
委員会が定める救済エリアのサイズに球をプレースすることで球を拭くだけでなく、ライを選ぶこともできます。
ちなみに、JLPGAでは球の箇所からホールに近づかない1クラブレングス以内と定めています。
このようなローカルルールを適用するかしないかの判断はとても難しいです。
なぜなら、ツアーで1年間プレーする場合、
一貫性を持ってその判断をしないとプレーヤーは不満と怒りを委員会にぶつけてくるからです。
シェフラー選手は最後に「ルールを決めるのは僕じゃない。ルールの下での結果を受け入れる必要がある」とコメントしていました。
その言葉に決める立場にいる私は少しホッとしました。