- 6月7日(土)
- テストドロップすること解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
3月に開催されたアクサレディスゴルフトーナメントの3ラウンド目。
9番ホールのセカンド地点右にあるカート道の上に球が止まり、ルーリング要請がありました。
そのカート道の右側は急斜面で、もしカート道から救済をするとなるとその斜面が救済エリアとなり、
かなりのつま先上がりのライから打つことが予想されました。
プレーヤーは、
「この急斜面に球をドロップすることになるが、ドロップした後にそのライから打ちたくないと思ったら、
カート道上の球の止まっていた箇所にリプレースしてプレーしてよいか」
と訊ねました。
レフェリーは
「それはできません。
カート道の上からそのままプレーするのであれば、インプレーの球を拾い上げることも、ドロップを試すこともできません」
と伝えました。
何故なら、プレーヤーがカート道の救済を受ける目的で球を拾い上げた場合、救済を受けなければならず、
拾い上げた後に気が変わって救済のドロップをしないと決めた場合、
もはや規則16.1bに基づいて球を拾い上げる権利が無効となるからです。
プレーヤーは規則9.4のインプレーの球を拾い上げた1罰打を足して、
カート道に止まっていた元の箇所に球をリプレースしてプレーを続けなければなりません。(詳説 9.4b/4)
これが球を拾い上げるだけにとどまらず、更にドロップしてライの状態を見定めてから、
そのライで打ちたくないと判断してカート道上の元の位置に球をリプレースしてプレーを続けると、
場合によっては失格となる可能性があります。
もしプレーヤーが、インプレーにする意図がなければ、
ドロップした球はインプレーにはならないことを知っていて、ドロップした球がどうなるかを事前にテストした場合、
ゲームの精神から逸脱したことになります。
これは規則1.2aの「プレーヤーの行動基準」に基づいて失格とすることが正当化される行為です。(詳説 14.4/2)
球をドロップするという処置は、救済を受けるときに球がどのようなライに止まるかの不確実性の要素があることを意味しており、
そのライを受け入れなければなりません。
このルーリングでは、プレーヤーは球に触れずに待っていたので何ら罰はありませんでした。
そして球をドロップしたらどのようなライになるかを想像した上で、
カート道に止まっている球をそのままプレーすることを選択しました。
プレーヤーはそこからナイスショットをしてバーディーチャンスに繋げました。
- 6月14日(土)
- 蛭田みな美、「30㎝のパット」を17時間打てず!解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
4月に開催された富士フィルム・スタジオアリス女子オープンの1ラウンド目での出来事です。
この日は一日中、大気が不安定な状態で、午後には会場から離れた北西で雷が鳴り始めました。
大会関係者は安全を最優先に考え、13時57分に雷雨接近のために即時中断を決定しました。
即時中断とは、雷などの切迫した危険がある場合に行う中断で、
レフェリーはエアホンで一回の長い音を一斉に鳴らします。
この合図を聞いたプレーヤーはすぐにプレーを止めなければならず、
もしこのエアホンを聞いたあとで、プレーをすると規則5.7bにより失格となってしまいます。
このとき蛭田選手は最終の18番ホールのグリーン上にいました。
バーディーパットが惜しくもはずれ、
ホールから30cmのところに止まった球をマークして同伴プレーヤーのプレーを待っていた時にエアホンが鳴りました。
もしマークせずにそのままタップインしていれば、
エアホンが鳴る前にそのラウンドは終了となり、翌日の第2ラウンドに備えることができました。
しかし、たとえどんなに短いパットであっても、即時中断の合図が聞こえたあとはプレーを止めなければなりません。
もしプレーヤーがホールアウトしてしまいたいと思って、球をリプレースしてタップインした場合は失格です。
当然、蛭田選手はそのことを理解していたので、すぐに避難しました。
その後、プレーの再開を待ちましたが、その日のうちに天気の回復は見込めず、翌日に持ち越されました。
そして翌朝の7時、中断から実に17時間後、ようやくタップインして第1ラウンドを終えることができました。
この規則5.7bの失格はとても厳しいように思えますが、
これは雷などの危険が及んでいるときにできるだけ速やかに安全な場所に避難させることが目的です。
数か月前にも奈良県の学校のグラウンドでサッカーをしていた学生が落雷で病院に搬送されたニュースがありました。
ゴルフも野外で行われるスポーツであり、いつこのような被害に遭ってもおかしくありません。
大気が不安定なときはプレーヤーのみならず、コースにいる関係者やギャラリーの皆さまも直ぐに安全な場所へ避難してください。
- 6月21日(土)
- ルーリングに要する時間解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
JLPGA2戦目となるVポイント×SMBCレディスゴルフトーナメントの2ラウンド目で起こったことです。
18番ホール(パー5)のグリーン左側でルーリング要請があり、近くにいたレフェリーが駆けつけました。
プレーヤーはツーオンを狙ったのですが2打目を左に曲げてしまい、グリーンから30ヤード離れた位置に止まりました。
グリーン周りはホスピタリティーテントやスタンドに囲われており、
球とホールの間にはリーダーズボードが介在していました。
プレーヤーはそのリーダーズボードから罰なしで介在の救済を受けられたので、球をあるがままにプレーするか、
臨時の動かせない障害物(TIO)からの介在の救済を受けられるとプレーヤーに説明しました。(ローカルルールひな型 F-23)
ところがプレーヤーではなく、そのキャディーは実際にはホールの左側を狙いたいから、
その狙い目を考えるとレフェリーが示した救済エリアよりも7ヤードほど右側に球をドロップしたいと要求してきました。
このキャディーは外国人で英語しか話せないため、現場で対応したレフェリーの説明が理解できず、
雇った日本人プレーヤーも英語が話せず、どうしてよいか分からずにルーリングが停滞してしまいました。
そこでセカンドオピニオンで私が対応したのですが、キャディーに
「TIOの救済エリアはプレーヤーの狙い目は関係なく、
ホールとリーダーズボードの右端を結んだ線から1クラブレングス離れた箇所が基点となる」
と説明しても納得しません。
キャディーはゴルフ規則を理解しないまま、興奮状態で誤った主張を繰り返すばかりです。
しかしプレーヤーが、キャディーの主張する箇所に球をドロップしてプレーした場合は、
誤所からのプレーで2罰打が付いてしまいます。
そこでプレーヤーに再度、ルールを説明したところ、正しい救済エリアに球をドロップしてプレーを続けました。
結局、このルーリングは18分も要してしまい、18番ホールはティーに2組待ちという大渋滞を招きました。
その結果、プレーの進行が著しく遅れてしまい、予定していた最終組の終了時間は20分超えてしまいました。
プレーヤーやキャディーは、1打が掛かっている中で競技しているのは理解できます。
しかしゴルフ規則を知らないで自身の要求を押し付けるのは誤りです。
ルーリングを要請したのであれば、レフェリーから現場での処置の選択肢や方法を聞いた上で、
次のプレーをどうすべきかを考えて行動に移さなければなりません。
そうでなく、別の場所にドロップを主張してルーリングが長引けば、不当の遅延となります。
プロツアー競技ではプレーの進行が著しく遅れると、
テレビの放送枠、コースのメンテナンス、ラウンド後の練習時間、ギャラリーバスの送迎時間など多くに影響を及ぼします。
それ故、これらの状況も踏まえて行動しなければいけません。
- 6月28日(土)
- 「教えて!Nory」解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
【質問】
ルールが大改訂される前は、
ワッグルの最中にクラブが枝に触れて葉っぱが落ちた場合はライの改善として、罰が課されていましたが、
現在のルールブックを見てもワッグルの最中に枝に触れて葉っぱが落ちた場合の罰が明記されていない様なのですが、
今一度、明確に解説頂けませんでしょうか。
【解説】
ご質問者様、ご質問ありがとうございます。
この内容に関する規則は、2019年のゴルフ規則の大改訂の前後で変更はありません。
私が競技委員になった2012年以降の裁定集(2012~2013、2014~2015、2016~2017)も全て調べて改訂はなかったので、
少なくとも2012年以降の解釈は変わりません。
プレーヤーの球が木の近くにあり、練習スイングやワッグルなどをした結果、木の葉っぱを数枚落としてしまった場合、
葉っぱを数枚落としたからと言って、自動的に規則8.1aの一般の罰が課される訳ではありません。
それは単にそのスイング区域やスタンス区域などの状況を変えたとしても、
プレーヤーのプレーに対して潜在的な利益を生み出していなければ違反とはならないからです。
規則8.1aには、「ストロークに影響を及ぼす状態を改善するプレーヤーの認められない行動」について書かれていますが、
その中にプレーヤーのスイングやスタンス区域に生長している自然物を動かしたり、曲げたり、壊してはならないとあります。
このケースですと、スイング区域に木の枝があり、ワッグルをした際に枝に付いている葉っぱが落ちたとのことですが、
その枝にまだ何十枚もの葉っぱが残っていて状況がほぼ変わらず、
スイング区域を改善したことにならないとのことであれば罰はありません。
このようなルーリングは実際でもありますが、ほとんどのケースで同様に罰なしの裁定となっています。
しかし、もし落とした葉っぱがスイング区域にある唯一の葉っぱであり、
この葉っぱが無くなったことでスイング区域が明らかに改善されたとなれば一般の罰、
つまり2罰打が課されます。
また落とした葉っぱを枝に付け直すことはまず不可能なので、罰は免れず、
プレーヤーはその改善された状況でプレーを続けることになります。
規則8.1c(1)には、「動かした木の枝、草、動かせない障害物を元の位置に戻すことによって改善を無くした場合、罰はない」
とありますが、葉っぱを枝に付け直すことはテープなどを使わない限り、付け直すことはできません。
しかし規則では元の状態に復元しようと、他の物質を使用することはできないとあるのでテープの使用は認められません。
もし枝葉のある木の近くで練習スイングをするときは、
ストロークに影響を及ぼす状況の改善とみなされないように慎重に行動しましょう。