- 12月7日(土)
- フェアウェイの下のトンネル内に球が止まる解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
クオリファイイングトーナメント(QT)で実際に起こった出来事です。
打ち下ろしのパー4で、プレーヤーのティーショットは右へ飛んでいき、
そのホールのフェアウェイの下を横切っているトンネルに転がっていきました。
トンネルは車が1台通れる大きさでコンクリートが敷かれているため、球はコロコロと転がり続け、
フェアウェイの真ん中あたりの地下でようやく止まり、ルーリングとなりました。
トンネルは障害物なので、トンネルの中で球が止まった場合は、
異常なコース状態からの救済が受けられます。(規則 16.1b)
そして完全な救済のニヤレストポイントは、球からの水平距離と垂直距離の両方を考慮した上で、
ホールに近づかない球から最も近い救済箇所を決定しなければなりません。(詳説 16/5)
今回のケースでは、球はトンネルの入り口から11ヤード近く転がり込んでいました。
そしてトンネルは地上であるフェアウェイのすぐ下にあり、
球の位置から推定するとフェアウェイまでの垂直距離は約3メートルでした。
両方の距離を比較しますと、真上の方が近いので、その基点はフェアウェイのほぼ真ん中となりました。
プレーヤーは罰なしに救済エリアに球をドロップしてフェアウェイから2打目をプレーしていきました。
大きなミスショットにも関わらず、異常なコース状態からの救済で、
幸運にもフェアウェイ真ん中からプレーを続けられた珍しいケースでした。
因みに、フェアウェイで基点を取るとき、地下にある球の位置は見えません。
そんな時は、トンネル内で入り口から球まで歩測し、
地上でもその入り口から等距離の11ヤード横に歩けば正しく基点を定めることができます。
いつか参考になれば幸いです。
- 12月14日(土)
- ラウンド中にドライバーヘッドが壊れる解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
ソニー日本女子プロゴルフ選手権の2日目に14番ホールでルーリングがありました。
プレーヤーは前のホールでティーショットをした際に、
ドライバーヘッドの上面部分であるクラウンの接着が剥がれて割れてしまったとのことでした。
そのドライバーではもう打てる状況ではなかったので、
どうしたら良いかの質問でした。
規則4.1a(2)には、「クラブがラウンド中に損傷した場合、
クラブを乱暴に扱った場合を除き、そのクラブを修理するか、他のクラブに取り替えることができる」とあります。
つまり、プレー中に怒りに任せてクラブを地面に叩きつけたり投げたりする以外で、
クラブが壊れてしまった場合、他のクラブに取り替えることができます。
しかしJLPGAを含む主だったゴルフ団体は、ローカルルールで
「壊れた、または著しく損傷したクラブの取り替え」を採用している為、
軽度な損傷では取り替えができない制限を設けています。(ローカルルールひな型G-9)
例えば、シャフトが折れたり、曲がってしまったら取り替えは認められますが、
単にシャフトがへこんでいるだけでは認められません。
クラブフェースは、目に見えて陥没などで変形していれば取り替えられますが、
細い亀裂が入っているだけでは認められません。
今回のケースでは、プレーヤーは通常のプレーでクラブが壊れ、
しかも著しく損傷しているので、クラブの取り替えを認めました。
そこで担当のクラブメーカーさんは、クラブカーからドライバーヘッドを持ってきて、
プレーヤーが18番ティーに来たところで、シャフトから壊れたヘッドを取り外し、
新たなヘッドを取り付けました。
これは同じシャフトを使っているので、修理と思われがちですが、
修理とはラウンドをスタートした時点でそのクラブを構成していたグリップ、シャフト、
クラブヘッドで元の状態に修復することを意味します。
今回のようにクラブヘッドを交換した場合は、
修理の範囲を越えているので取り替えとなります。
このクラブの修理と取り替えの違いを明確にする理由は、
クラブが著しく損傷してなくても修理は可能ですが、取り替えはできないという点です。
このケースのもう一つの注意点は、新たに取り替えたドライバーヘッドについてです。
14番ホールでルーリング要請があったとき、
メーカーさんはドライバーヘッドを新たに取り付けたいと言いました。
それについては問題ないのですが、
レフェリーはその時点で取り付けたいドライバーヘッドをプレーヤーやメーカーさんらが
一緒に持ち運んでいないことを確認しました。
これは規則4.1b(4)の「クラブを追加する、または取り替える場合の制限」にありますが、
ラウンド中にクラブが壊れるかもしれないと心配して、ドライバーヘッドなどの部品を持ち運び、
その部品でクラブを組み立てることを禁じています。
つまりプレーヤーが事前にキャディーバッグに入れてプレーしたり、
クラブメーカーさんがいつでも交換できるようにとプレーを観戦しながら
持ち歩いた部品でクラブを取り替えると違反となります。
何故なら、これを認めてしまうと規則4.1b(1)の「14本のクラブの制限」の効力がなくなってしまうからです。
クラブとは、1本のシャフトにクラブヘッドがついて初めて1本と数えられます。
つまりシャフトだけとかヘッドだけを部品として持ち運んでも
14本のクラブの制限の違反に引っかからないのです。
今回のように、部品として持ち運び、いざ壊れたという時に直ぐに1本のクラブに組み立てて使えてしまうと、
15本のクラブを持っているのと変わらないので、それを制限する為にこの規則があります。
この違反は組み立てて1本のクラブとして追加、
或いは取り替えた時点で一般の罰(2罰打)で2回目の違反は失格となります。
そして違反に気づいたら、次のストロークをプレーする前にプレーから除外する手続きをしなければ、
今度は規則4.1c(1)の失格となります。
このようにクラブの損傷や取り替えには、どのようにして壊れたのか、
著しい損傷なのか、修理なのか取り替えか、取り替える部品は持ち運ばれていないか等、
正しく裁定するまで1つ1つ細かな確認が必要です。
- 12月21日(土)
- インプレーの球に触れる解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
9月に開催された山陽新聞レディースカップの1ラウンド目の出来事です。
8番グリーンでルーリング要請がありました。
プレーヤーはパッティングをしようとボールマーカーの前に球をリプレースし、
ボールマーカーを拾い上げました。
それからストロークしようと思いきや、球の向きが狙っている方向より僅かにずれていることが気になり、
その向きを調整しようと無意識に球に触れてしまったのです。
プレーヤーは、「球を動かしてはいないが、その位置で球に触れて少し向きを変えた」と言いました。
本来であれば、ボールマーカーで球の位置をマークしたままでなければ
グリーン上の球を拾い上げたり触れたりしてはいけません。
それはたとえ、球の位置を変えずに故意に触れるだけでも
規則9.4の違反で1罰打となります。
プレーヤーは、「故意ではなく、無意識です」と説明しましたが、
たとえ無意識であっても手で球に触れる行為は故意とみなされてしまいます。
その結果、1罰打を加えた上で、
同じ位置からプレーを続けました。
このようなルーリングはとても稀ですが、
年に1~2度あります。
昨年は富士通レディースの9番グリーンでは、
プレーヤーがマークせずに球を拾い上げてしまうことがありました。
この場合も1罰打で、
球を元の箇所にリプレースしました。
あとでそのプレーヤーに事情を聞いてみたところ、
「グリーンに上がったときに、3打目のサンドウェッジの距離が想定していた距離より4ヤードショートしていたので、
何でだろうと考え込んでいたら、
マークするのを忘れて球を拾い上げてしまった」と言ってました。
プレーヤーたちは、常に多くのことを考え、
判断や決定、ときには反省をしながらプレーしています。
そんな中、
ふとしたことでいつものルーティーンと違う行動を取ってしまうのかもしれません。
それで罰を課されるのは勿体ないので、
インプレーの球に触れる時は、慎重に行いましょう。
- 12月28日(土)
- ドロップした球の現場検証解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
TOTOジャパンクラシックの1ラウンド目での出来事です。
プレーヤーAは18ホールを終えてスコアリングテントに入るやいなや、集計を担当していた中﨑さんに、
「17番ホールのセカンド地点で、修理地の中の右側にある球を拾い上げて救済のドロップをしたのですが、
救済エリアの取り方を間違えてドロップしたかもしれません」と言いました。
17番ホールのセカンド地点の左ラフは、猪が地面を掘った跡で損傷が酷く、白線で修理地として定めていました。
ティーから230~240ヤード地点にあった為、多くのプレーヤーのティーショットはこの修理地の中に止まり、
ほとんどのプレーヤーは自身で救済処置をしていました。
Aも自身で救済のドロップをしてプレーしたのですが、
その直後にもう一人の同伴プレーヤーBが同じ修理地からの救済でルーリングを要請しました。
そしてレフェリー立ち会いのもと、その同伴プレーヤーの処置を見ていたら、自身の救済方法に疑問を持ったのでした。
レフェリーはアメリカ人だった為、英語が話せないAはその場でなく集計所で確認しようとプレーを続け、
中﨑さんを見た瞬間、説明を始めたのです。
本来、修理地などの異常なコース状態から救済を受ける場合、
使うであろうクラブでスタンスを取り、ホールに近づかず、
球や意図するスタンスやスイングの全てが修理地の白線の外にある事を確認してから
完全な救済のニヤレストポイントを取ります。
レフェリー立ち会いのもと、Bもそのように基点を取り、
そこからドライバーでワンクラブレングスの救済エリアを定めてからドロップをしました。
しかしAは勘違いして、白線からドライバーでワンクラブレングスを取ってしまいました。
そしてワンクラブレングスいっぱいのところに球をドロップし、6番アイアンでストロークしました。
中﨑さんは、Aから事情を聞いた直後、この内容をレシーバーで報告。
委員会は、「おそらく違反にはならないだろうけど、現場でちゃんと確認したほうがいい」とのことで、
Aにドライバーと6番アイアンを持たせ、17番ホールまでカートに乗せて現場検証することになりました。
まだ試合が続いていた為、プレーしている組と組の合間を見てセカンド地点に行き、
本人から球が止まっていた地点、そして白線からドライバーで取った基点、
その基点ギリギリに球をドロップした地点を定めてから、Aに6番アイアンでスタンスを取ってもらいました。
そうしたら幸運にも、スタンスが白線の外になりました。
私達はこれを「結果オーライ」と呼んでいますが、
誤った方法で基点や救済エリアを取ったとしても、
結果的に正しい箇所に球をドロップしてプレーしたならば、罰がない
ことを意味します。(定義:完全な救済のニヤレストポイント/2)
今回のドロップで一番懸念したのは、その球をストロークするのに、スタンスが白線にかかっているかもしれないことでした。
もしそうならば、プレーヤーは正しく救済しておらず、誤所からのプレーで2罰打を加えなければなりませんでした。(規則14.7)
Aは、レッドペナルティーエリアのラテラル救済と勘違いして、白線からクラブレングスを取ってしまったと説明していました。
そして現場検証を終えて、「これでちゃんと処置を覚えました。ご迷惑おかけしました」と言い、
委員会も罰が無いことを確認できて安心しました。
このように現場検証をすることはとても珍しいのですが、
僅かでも疑念が残ったままだとプレーヤーも気が晴れませんし、万が一、クレームがあった場合は委員会も説明ができません。
それ故、問題をクリアにする為には有効な手段だと思います。