- 11月2日(土)
- 動物の蹄による損傷解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
10月1週目に行われたスタンレーレディスホンダゴルフトーナメントは東名カントリークラブで開催されました。
佐藤心結選手の初優勝で大きな話題になりましたが、
その他にもニュースに取り上げられたのがコースに多数生息する鹿です。
ギャラリー用のロープ内に入り込み静かに観戦する鹿はとても可愛いですが、
何かの拍子に驚かせてしまうと凄い勢いでコース内を走り回り、
パッティンググリーンやフェアウェイ、バンカーなどを傷つけてしまいます。
このような損傷は、パッティンググリーン上では修理できますが(規則13.1)、
他のコース上ではできません。
また、コース上にある単独の動物の足跡や蹄の跡は動物の穴ではありませんので、
プレーヤーは自動的に救済を受けることもできません。(定義:動物の穴)
もし、委員会が鹿の蹄による全ての損傷区域をマーキングすることなく修理地として定め、
プレーヤーに救済を認めたい場合はローカルルールF-13の「動物の蹄による損傷」を採用することができます。
このローカルルールを適用することで、
バンカー内に深くできてしまった鹿の蹄跡やフェアウェイが蹄によって傷ついた区域が
プレーヤーのスタンス、スイング、または球の障害になっている場合、
規則16.1に基づいて救済を受けることができます。
パッティンググリーン上ではそうした損傷は修理することができるため、
委員会は規則16.1に基づいた救済を認めないことを選択することもできます。
つまり、球がパッティンググリーン上にあり蹄跡がプレーの線上にあっても救済はなく、蹄跡の修理に限られます。
東名カントリークラブは鹿による損傷が少なかったため、
このローカルルールは採用しませんでしたが、
10番グリーン付近に現れた鹿を森の中に追っ払っていた私を見たプレーヤーが
バンカーやフェアウェイにある鹿の蹄による損傷から救済は認められるのかを確認されました。
答えはノーでしたが、あまりにも酷い損傷がある場合は競技委員を要請してくださいとお伝えしました。
なぜなら、
委員会は競技中でも修理地としてマーキングされていない区域を修理地と定める権限を持っている
からです。
一般的に、地面の状態がそのコースにとって異常であったり、
特定の区域からプレーすることをプレーヤーに求めることが合理的ではない場合、
その場所を修理地としてマーキングします。(一般的なプレーのためのコースマーキング2F(1))
コースはあるがままにプレーすることがゴルフの原則ですが、
競技期間中ではコースの状況が変わることもあります。
例えば鹿の蹄跡や多くのギャラリーがぬかるんだコースを歩いた跡など、
フェアなプレーをするための妨げになることは
適切なコースマーキングと追加ローカルルールを採用することでプレーヤーに救済を認めています。
- 11月9日(土)
- コース上の橋解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
ゴルフコースにある橋はさまざまな理由で建築され、
そのような橋は動かせない障害物として、
救済が認められます。
しかし、救済を受ける際は気をつけなければならないポイントがいくつかありますのでご紹介します。
新南愛知カントリークラブ美浜コースで開催された住友生命Vitalityレディス東海クラシックの
12番ホールは570ヤードのパー5で、
残り144ヤードのラフには縦5メートルで地面から1.5メートルほどの高さの小さな石橋があります。
この石橋は飾り橋でジェネラルエリアに架けられており、
プレーの物理的な障害になっている場合、救済が認められます。
今年はこの橋で2件のルーリングがあったのですが、
球が橋の後ろ側のラフにあり、
スイングの障害になっていたので、
ジェネラルエリアの完全な救済のニヤレストポイントから
ホールに近づかない1クラブレングス以内の救済エリアに球をドロップしました。
しかし、救済後には球とホールの間に橋があり、
プレーの線に介在していましたが、
救済は認められませんのでプレーヤーは橋を越せる高さのクラブでパッティンググリーン前まで刻んでいました。
もし、橋の上に球が止まった場合、完全な救済のニヤレストポイントはその橋の下の地面となります。
つまり、プレーヤーが救済を受けることを選ぶ場合、
垂直距離は無視されます。
これは橋などの高架の部分に球が止まった場合に、
橋の周りに生えている木の枝の上が救済のニヤレストポイントになることを避けるためです。
その真下の地面の地点にまだ橋の一部が障害となっている場合は、
その地点を基点として完全な救済のニヤレストポイントを決定します。(詳説16.1/4)
ゴルフコースにある橋はペナルティーエリアの中やアウトオブバウンズにあることもあります。
橋がアウトオブバウンズにある場合、
たとえプレーヤーのプレーの障害になっていたとしても救済はありません。
しかし、橋がペナルティーエリアにある場合は、
まず球がどのコースエリアにあるかを確認することが重要です。
球がペナルティーエリアにある場合、
その橋がプレーヤーの障害になっていたとしても無罰の救済を受けることはできません。(規則17.3)
しかし、球がジェネラルエリアにある場合、
その橋がたとえペナルティーエリアの中にあったとしても
プレーヤーのスタンスやスイングの障害になっていたら救済を受けることができます。(規則16.1)
このように、コースにある橋は障害物の中でも少しだけ気をつけなければならない建築物です。
ご参考にして頂ければ嬉しいです。
- 11月16日(土)
- パー3のコールオンについて解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
今年8月に行われたAIG Women's Openはゴルフの聖地セントアンドリューズで開催されました。
スコットランドの夏は日本に比べればとても寒く、最高気温20度前後、最低気温10度に加え、突然の雨や突風が吹きます。
大会当週は最大18m/s(40mph)の風が予報されており、競技がその風で止まらないよう、
コースセッティング担当のGrant Moir氏はスティンプメーターを9 1/3フィートに設定し、
グリーン刈りをやめてコースをプレーヤブルな状態にしました。
大会2日目、私は11番ホール、165ヤードのパー3を担当しました。
海の横に位置するこのホールはコースの中でも特に風が強く、
パッティンググリーン上に止まっていた球は頻繁に動き、難易度の高いホールでした。
そのため、大会初日は最大4組がそのホールに溜まってしまい、2日目はコールオンが実施されました。
私は10番ホール担当レフェリーのアーニャとやりとりを繰り返し、最終組までコールオンを続けました。
コールオンとは、プレーのペースを改善するために、
パー3でグリーンに球が乗った後に後続組を打たせてプレーを進める手順のことです。
そして3サムの組み合わせだった場合、そのパッティンググリーン上に最大6個の球が乗る可能性があります。
ここでの注意点として、例えばあるプレーヤーがパッティンググリーン上からストロークして、
同じパッティンググリーン上に止まっている別の球に当てた場合、
プレーヤーは一般の罰(2罰打)を受けます。(規則11.1a 例外)
これは例え止まっていた球が後続組のであったとしても罰は免れません。
なので、通常パッティンググリーン上の後続組の球がプレーの障害になる場合、
前の組のプレーヤーや競技委員がマークしてその球を拾い上げますが今回はR&Aの指示の下、
プレーヤー自身に拾い上げてもらうようにしました。
なぜならパッティンググリーン上に止まっていた球が、風の力で自然にホールに近づく可能性があり、
安易にその球を拾い上げてしまうと球がホールに近づく可能性をそのプレーヤーから奪ってしまうことになるからです。
規則では一度パッティンググリーン上から拾い上げられた球は、
リプレース後に自然の力で動かされたとしてもまた元の箇所にリプレースしなければなりません。(規則13.1d,規則9.6)
このコールオンの効果で11番ホールは最大2組の待ちですみましたが、
その代わりに12番ホールが混み合い、長いティー待ちになっていました。
混み合うパー3でのコールオンはプレーのペースの改善にはなるものの、
規則違反のリスクやプレーヤーの利益を考えると、委員会は安易に実行するものではないと思いました。
今回は特に11番ホールのティーイングエリア付近にトイレが設置されており、
12番ホールのティーイングエリアより待ちやすい環境でした。
結果的にコールオンはしない方が良いと思いました。
- 11月23日(土)
- スコアカード誤記による失格を最小化するために解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
今年6月にPGAツアーがスコアカード誤記による失格を最小限にする措置としてスコアカード提出に関するルールを
一部修正することを決めました。
ことの発端は今年2月のジェネシス招待でジョーダン・スピースが失格となった出来事です。
スピースはジェネシス招待2日目のラウンド後、スコアリングエリアに直行しスコアカードにサインして提出しました。
しかし、スコアリングエリアから出てすぐに4番ホール、パー3でボギーの「4」だったにも関わらず、
スコアカードには「3」と記したまま提出してしまったことに気づきます。
そのホールの訂正をしようとスコアリングエリアに戻りましたが、
スコアの修正は認められず、彼は失格となりました。(規則 3.3b(3))
そこで、PGAツアーはUSGAやR&A、DPワールドツアーとともに、
プレーヤーがスコアリングエリアを出てから15分間の猶予を設ける新たな規定を発表しました。
PGAツアーが運営する全てのツアーと主要なゴルフ団体によるツアーにおいては、
プレーヤーがスコアリングエリアから出た時が、スコアカードを提出した時と定めています。
JLPGAも赤テープで区切られた提出エリアを完全に離れたとき、スコアカードを提出したものと定めています。
一度スコアカードを提出すると、提出された実際のスコアよりもホールのスコアが少ない場合、
知らなかった罰を含めなかった場合を除き、失格となります。
それが、6月以降のPGAツアーではスコアリングエリアを出たとしても、15分以内であれば、
スコアリングエリアに戻ってスコアを修正することができるようになりました。
また、スコアリングエリアから出たプレーヤーのスコアカードの誤記に競技委員が気づいた場合は、
プレーヤーにその誤りを伝えた時から15分以内であれば、修正可能になります。
PGAツアーのこのルールの修正は大物プレーヤーの失格を防ぐための忖度とも言われており、
「ジョーダン・スピース・ルール」と呼ばれています。
この規則は、AIG Women’s Openでも採用されており、私は初めてR&Aによる原文を見ました。
そこには、例外も書いてあり、次の4つでは、たとえ15分以内だったとしても修正はできません。
それらは、
組み合わせ表が発表された、
プレーヤーが次のラウンドを始めた、
プレーヤーの1人でもプレーオフのためのストロークを行った、
または、競技会の結果が最終となった場合です。
私は時間管理が必要とされるこの新ルールに戸惑ってしまいますが、
プレーヤーにとっては心強い味方なのかもしれません。
- 11月30日(土)
- アジアンツアー初の週末2日間での54ホール完遂解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
10月1週目に行われた男子アジアンツアーのマーキュリーズ台湾マスターズは台湾ゴルフ&CCで開催されました。
台風「クラトーン」の影響により初日、2日目とファーストラウンドをスタートできないまま連日の中止が決定しました。
競技はアジアンツアーでは初となる週末2日間での54ホールの完遂を目指し、
LivGolf方式の全18ホールから124名のプレーヤーがスタートするショットガンが実施されました。
早朝7:00から4サムでスタートし、2ラウンドは14:30にスタート。
2ラウンドの途中で日没のためサスペンデットになりました。
3ラウンドは50名にカットされ3サムで11:30からショットガンスタート。
その結果、南アフリカ出身のジェイビー・クルーガーがアジアンツアー5年ぶりに通算3勝目を挙げました。
私の知る限り、日本でこのショットガン方式が試合で取り入れられたことはありませんが、
悪天候が多いこの頃、1つの選択肢として考えなくてはならないのではないかと思います。
そこで、このような方式の利点と注意点をまとめました。
この方式の最大の利点は限られた時間とコースを最大限に有効活用することです。
競技がスタートしてから全ホールでプレーが始まるため、空きホールなく日没までプレーが続きます。
ただし、注意点としましては、124名のショットガンスタートに合わせて、
コースの整備が全ホールスタート時間内に間に合うのかということ。
124名が一度に練習できる環境があるかということ。
ラウンド後一気に大勢のプレーヤーが上がってくるため、
スコアリングエリアの場所とスタッフの確保ができるかということ。
また、ホールの切り替えがある場合、その時間も確保すること。
最終ラウンドの組み合わせ表を発表する際に、
良いスコアの組はできるだけインコース終わりにするためにリーダー組は1番ホールスタート。
その後は 18番ホールスタートになる方式で決めていくことなど。
このような注意点は競技ミーティングで話し合われ、スポンサーや運営、コースの理解を得ることが大切です。
悪天候に柔軟に対応したアジアンツアーは見事だったと思いました。
JLPGAツアーでもショットガン方式が取り入れられる日が来るかもしれません。