- 10月5日(土)
- 「教えて!Nory」解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
【質問】
夫婦の間でいまだに揉めている件があり、教えてノーリーいたします。
嫁さんの打ったボールが、アゴの高いバンカー奥の斜面のラフにかろうじて止まりました。
その後、同伴者が同じバンカーに入れ、何打目かでようやく大量の砂と共に脱出に成功。
しかし、その直後、嫁さんのボールが動き出し、バンカー内に転がり落ちてしまいました。
バンカーから打ちたくない嫁さんは、
同伴者のバンカーショットの振動や砂の影響でボールが動いたので、元あったラフから打てると言い、
私は、あくまで重力など自然の力で動いたので、バンカーから打つべきと主張しました。
結局、私の主張を受け入れて、バンカーから打つことになりましたが、
未だに彼女は納得せず、教えてノーリーに判定をお願いした次第です。
どうか公正な判断を何卒宜しくお願いします。
【解説】
ご質問ありがとうございます!
結果から申し上げますと、奥様の主張が正しいです。
同伴プレーヤーがバンカーショットをした際、大量の砂を動かし、
その直後に球がバンカーに転がり落ちたということは、
その球が動いた原因は同伴プレーヤーにあると判断できます。
同伴プレーヤーは、奥様にとっては外的影響であり、
外的影響が奥様の球を動かした場合は、
規則9.6により罰なしでリプレースしなければなりません。
この処置をせずにバンカーからそのままプレーしたことにより、
誤所からのプレーで規則14.7の違反の2罰打を加えて、
その球で引き続きプレーしてホールアウトしなければなりません。
ご質問者様は、自然の力で球が動いたと主張されていますが、
例えばその球の近くに誰もおらず、
これという原因が分からずに斜面から球が転げ落ちた場合は、
自然の力が球を動かしたと判断します。(規則9.2b(2))
自然の力とは、「風、水などの自然の影響、または重力の影響により
明らかな理由がなく何かが起きる場合」のことを指します。(定義:自然の力)
このケースでは、同伴プレーヤーのバンカーショットを打ったタイミングで動いているので、
自然の力ではなく、外的影響が動かしたと裁定します。
- 10月12日(土)
- ローリー・マキロイのドライバーが真っ二つに折れる解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
PGAツアーのBMW選手権の最終日での出来事。
9番ホールでティーショットをしたローリー・マキロイ選手は、
ショット後にティーを拾い上げようとドライバーに体重を乗せながら屈んだ瞬間、
そのドライバーのシャフトが真ん中でバキッと折れてしまいました。
そして残りの9ホールを、ドライバーの替わりに
スプーンでティーショットをして、そのラウンドを終えました。
本来、ラウンド中にクラブが折れるなどの大きな損傷があれば、
乱暴に扱った場合を除き、そのクラブを修理するか、
他のクラブに取り替えることができます。(規則4.1a(2))
しかし残り9ホールあるにも関わらず、
マキロイはクラブの取り替えをせずにドライバー抜きでプレーを終えたのです。
一見、ドライバーを折った行為は、乱暴の扱いではなく、
単なるアクシデントのように見えますが、9番のティーショットは大きく右に曲がり、
レッドペナルティーエリアに入るミスショットでした。
その怒りから、ティーを拾う際に余計に体重と力をクラブに加えて
折ってしまったのかもしれません。その真意は本人にしか分かりませんが、
単なるアクシデントであればクラブ取り替えのルーリング要請があるものです。
実際、マキロイはその前日の17番ホールでティーショットをミスした後、
持っていたドライバーを池に投げ入れるという残念な行動をしています。
ミスショットによる苛立ちは分かりますが、
それでクラブを投げたり、折るような行動は慎まなければいけません。
これは観戦しているゴルフファンやクラブメーカーさんに対して配慮に欠ける行為であり、
規則1.2の「プレーヤーの行動基準」が問われることになります。
規則1.2とは、すべてのプレーヤーに期待される行動を示しており、
「誠実に行動すること、他の人への配慮、
速やかなプレーのペースやコースの保護をする」などがあります。
ファーであれば、最低限守るべきマナーであり、ましてやプロであれば当然の行動です。
この規則の違反に対する罰は、その行為が重大な非行と判断された場合のみ失格となります。
実際に、2019年のサウジインターナショナルの大会で、
セルヒオ・ガルシアが怒りに任せて5つのグリーン上でパターを叩きつけて
大きな損傷を残し、後続組のプレーにも影響を及ぼしました。
委員会は、この行為を重大な非行とみなしてガルシアを失格にしました。
今回の マキロイ選手の行動は、重大な非行ではありませんが、
これ以上残念な話題で注目されないよう、よりマナーに気をつけ、
用具を大事に扱わないといけません。
正しく理解して行動することがこのような結果を避ける一番の方法と言えるでしょう。
- 10月19日(土)
- 次は何打目?解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
沖縄で開催されたソニー女子プロゴルフ選手権大会で珍しいルーリングがありました。
2ラウンド目の4番ホール(パー4)で、プレーヤーのティーショットが
左の林方向へ飛んでいった為、暫定球をプレーしました。
セカンド地点に着いて1分程球探しをしたら見つけることができました。
プレーヤーは近くにある暫定球を拾い上げ、
見つけた球でプレーし、グリーン上でその球を拾い上げた際、
それが自分の球でなく誤球をプレーしたことに気づきました。
ここでプレーヤーはレフェリーを要請してセカンド地点に戻りました。
立ち会ったレフェリーは、捜索時間は1分費やしているので、
あと2分の捜索時間が残されていると説明しました。
これは規則18.2aにもありますが、
球の捜索をして誤球を見つけた時点で捜索は止まっているので、
誤球をプレーしている間も含めて捜索時間の時計は止まります。(詳説18.2a(1)/1)
ところがプレーヤーは「捜索はもういいから暫定球でプレーを続けたい」と言いました。
しかし暫定球は既に拾い上げており、インプレーとなる球を拾い上げた場合は
1罰打でその球をリプレースしなければなりません。
プレーヤーは左ラフに止まっていたであろう箇所を推定して、
そこに球をリプレースしてからプレーを続けました。
さて、このような事態になった時、プレーヤーから必ず聞かれるのは
「次は何打目?」という質問です。 こんな時の打数の数え方ですが、
私の場合、打った数と罰打を別々に数えてから合計を出します。
今回は初めのティーショットで1打、
そして暫定球のティーショットで更に1打で打った数は2打になります。
ここで注意しなければならないのは、
誤球をプレーしたストロークはカウントされないことです。(規則6.3c(1))
そして罰打は、
初めの球の紛失によるストロークと距離の救済で1罰打。(規則18.2a(1))
誤球のプレーで2罰打。(規則6.3c(1))
インプレーの球を拾い上げた1罰打(規則9.4b)で計4罰打となります。
つまりプレーヤーは既に6打で、セカンド地点から7打目をプレーすることになります。
ここでの反省点として、誤球は球の確認を慎重に行なっていれば防げた違反で、
それに付随してインプレーとなる暫定球を拾い上げてしまった計3罰打は余計でした。
しかもプレーヤーはグリーンからセカンド地点に戻らなければならず、
猛暑の中、体力も時間も削られます。
このような事にならないよう皆様には気をつけて頂き、
万が一、同じような過ちをしてしまった場合は、
スコアの数え方を参考にして頂ければと思います。
- 10月26日(土)
- アンプレヤブルとみなした後の暫定球の扱い解説:(JLPGA競技委員)阿蘇紀子さん、中崎典子さん
プレーヤーがティーショットを右の林の方へ打ってしまい、
紛失の恐れがあるとして暫定球をプレーしました。
2打目地点に行くと、プレーヤーは初めの球を見つけたものの、
ブッシュの中に深く潜った状態でそのままプレーできる状態ではありません。
そこでアンプレヤブルとみなしてラテラル救済や後方線上の救済を試みるのですが、
ブッシュは広範囲にあり、2クラブレングス離れたところでドロップしても打てない状況は変わらず。
また球の後方線上はOBの近くで良い選択肢とは言えません。
そこで最後の残る選択肢は、
ティーに戻って1罰打でストロークと距離の救済を受けることになります。
このようなルーリングがあるとき、
選手に「暫定球でプレーを続けていいですか」と聞かれることがあります。
残念ながら、今のゴルフ規則ではせっかく打った暫定球は放棄しなければなりません。(規則 18.3c(3))
そしてこれは2023年2月にセントアンドリュースで開催されたゴルフ規則会議でも議題に挙がり、かなりの議論になりました。
会議の詳細は2023年4月1日の記事にありますので、ご興味のある方は読んで頂ければと思います。
この会議では、2027年の規則改定に向けて100の変更案を出し合い、最終的に11の候補が残り、
その中の一つが「初めの球がアンプレヤブルとなり、ストロークと距離の救済しか選択肢がない場合、
暫定球をプレーしていればその暫定球でプレーを続けることができるようにすべき」という案でした。
そして多くの議論を重ねたあとの最終投票では、賛成票が反対票を僅かに上回る結果となりました。
賛成とする大きな理由として、元の位置に戻ってプレーし直す必要がなく、プレーのペースが大幅に改善されることです。
また多くのプレーヤーは、既に暫定球を打っているのに、何故その球でプレーを続けられないのかと疑問に思うものです。
それに対する反対意見は、仮にその暫定球がミスショットだった場合、
プレーヤーはストロークと距離の救済の球の結果を既に知っている為、
無理してでも他の選択肢であるラテラル救済や後方線上の救済を選ぶ可能性があるという点です。
このように1つの選択肢の結果が分かってしまっているが故、
他の選択肢と比較して良い方を選べてしまうのは果たしてフェアなのかが論点となりました。
また、もし初めの球をプレーしたくないのであれば、「暫定球」と宣言せずにティーショットをすれば、
初めの球はアウトオブプレーとなり、2球目でプレーを続けることができます。
プレーヤーはいつでもストロークと距離の救済が認められます。(規則 18.1)
また暫定球というのは、初めの球がOBかペナルティーエリア以外で紛失の恐れがある場合のみ、
暫定的にプレーが認められる球であり、それ以外に暫定球の使用を認めてしまうと、
定義から見直さないといけなくなります。
私自身、この案が出たときは賛成でしたが、色々と議論をしていく中で反対に転じました。
今後はR&AやUSGAが主体となって議論を重ねていくと思いますが、いずれ改定となるか否か、とても興味深いです。