桐林宏光の「メンタル強化術」第7回~ラウンド後はミスショットを反省しないほうが上達する
写真/Getty Images
突然だが、ラウンドを終えたあと、あなたの印象にはどんなショットが残っているだろう。恐らく「あそこでショートしてバンカーにさえ入っていなければ」「3番ホールのティーショットでスライスが出たのが悔しい」といったミスショットの記憶ではないだろうか。そして次のラウンドまでに、反省を生かして課題を克服しようと練習場に通うかもしれない。
ところが、スポーツメンタルトレーニング指導士の桐林宏光プロは「自分の欠点を一生懸命探す真面目な性格であるほど、ゴルフは上達しません」という。スライスする悪癖を直そう、次のラウンドではもうシャンクしないよう気をつけようと反省する人ほど、いつまでもヘタクソのままというわけだ。
反省せずに上達するにはどうすればいいのか、桐林プロにアドバイスしてもらった。
欠点を反省するよりも長所を伸ばす
ラウンドで覚えておくべきことは、どんなミスショットをしたかではないと桐林プロ。その理由は、ある実験結果にあるという。
「アメリカの某ゴルフ部で、実験が行われました。Aチームはラウンドのあとで悪かったところを書き出して反省会。そして欠点を克服する練習に取り組みました。それに対してBチームは、今日のラウンドでよかったショットを書き出して、得意のショットをさらに磨く練習をしたんです。一年後、強くなったのはナイスショットを書き出したBチーム。私たちは『ミスショットを克服すれば、いいスコアが出せる』と思いがちで、あとで反省するために一生懸命ミスを記憶しようとします。実はそれこそが上達の遠回り。ミスショットは忘れていいんです。それよりも『あのときはこんな感触で打った』と、ナイスショットの記憶をどんどんインプットするよう心がけてください」
ミスは冷静にとらえて、好打は大げさに喜ぶ
ミスショットを忘れ、ナイスショットを記憶するには、コツがあるという。
「スライスしてOBしたり、シャンクしたりすると、『やっちゃった!』と思いますよね。感情が激しく動いたり、心拍数が一気に上昇したりすると、脳にダイレクトにインプットされて記憶の倉庫に残ってしまうんです。それを避けるには、たとえミスショットが出ても、冷静でいること。そのためには練習中から訓練が必要です。練習場でミスが出ると『チクショー』と口走ったり、悔しそうにすぐさま次のショットを打ったりする人がいますが、そうした行動は心拍数を上げる原因になります。ミスが出ても『右に曲がったなあ』と冷静に観察しながら、最後までフィニッシュをとるクセをつけましょう」
では、ナイスショットを記憶するには、どうすればいいのだろう。
「特に日本人の場合、『今のはいいショットだったな!』と褒められても『たまたまだよ』などと謙遜しがち。せいぜい小さなガッツポーズを決める程度で、一気に心拍数が上がるような喜び方をしません。これではナイスショットが記憶に残らないのです。いいショットが出たら大げさに喜ぶ。それが上達への近道です」
ラウンド中、ミスショットが出ると首をひねりながらその場で素振りする人がいるが、それではミスの記憶を重ね塗りするばかりだ。ミスしたら、サッサと歩き出す。ナイスショットが出たら、それをなぞるように、もう一度素振りする。まずはそんな変化から取り入れてみてはいかがだろう。
教えてくれた人: 桐林宏光(きりばやし・ひろみ)プロ
1964年生まれ東京都出身。大学卒業後にゴルフを始める。社会人入学で、筑波大学大学院体育研究科体育方法学に入学しスポーツ心理学やメンタルトレーニングを学ぶ。日本女子プロゴルフ協会ティーチングプロフェッショナル会員A級。日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング指導士。
文/及川愛子(ゴルフライター)
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